吉川英治『三国志』

 玉璽を掌にしたまま孫堅は、茫然と、程普の物語る由来に聞き恍れていた。

 そしてひそかに、思うらく、

(どうして、こんな名宝が、おれの掌に授かったのだろうか?)

 なにか恐ろしい気持さえした。

 程普は、語りつづけて。

「――今、思い合せれば、先年、十常侍らの乱をかもした折、幼帝には北ぼう山へお遁れ遊ばしましたが、その頃、にわかに玉璽が紛失したという噂が一時立ちました。――今、その玉璽が計らずも、井泉の底より拾い上げられて、太守のお掌に授かるというのは、ただ事ではありません」

「ウーム、自分もそう思う。……まったくこれはただ事ではない」